★ 【Drドクドクの陰謀】怪人ぼじょれぃぬぅぼぅ ★
<オープニング>

〜ある日の名画亭〜

 立冬も過ぎて冷えてきた。
 主の此花慎太郎もあまり外にでたがらないが、その日は違っていた。
「う〜、さむいっす」
 店番をアルバイトの子にかわって買ってきたのは、この時期解禁となる有名ワイン。
「通りがかりの親切なおじいさんに安く譲ってもらってラッキーだったっす」
 財政的に豊かではないので、多少の節約も嬉しく感じる慎太郎だった。
「実際の解禁日より、おそいっすが今日が名画亭での解禁日っす!」
 うきうき気分でワインをあけようとする慎太郎。
 しかし、客の一人がそのワインのラベルが奇妙な事に気づいた。

『ぼじょれぃぬぅぼぅ』

 ひらがなである。
 ソレを本物と思っているのか新作と思っているのか、慎太郎は気づいていない。
 なにやらイヤーな予感が当たりを包んだ。
 会計を済ませて去る客もいれば、何が起こるか待っているものもいた。
 
「それじゃあ、あけるッスよ」
 きゅぽんといい音がして蓋が開く。
 そして、中から赤い液体……のような生物が飛び出してきたのだった。
「うわ、な、なんなんすか!?」
 ぐちゃっと床に落ちそしてゆっくり人の形をつくりだす。
「ぼじょれー」
 口当たりにあるくぼみから、気が抜けるような声が響く。
「なんで、毎回毎回こんなめにあうんすかー!」
 カウンターに隠れながら慎太郎は叫ぶが誰もそれには答えない。
 答えようもない。
 
 いや、本当に。
 
〜某所〜

「そろそろあけるころだな」
 慎太郎へワインを手渡した老人―Drドクドク―はにやりと笑った。
 バリーンと名画亭のある背後から音がした。
「ヒョヒョヒョ、せいぜいがんばってみることじゃ。成功のようじゃからな、早速量産のための資金を総帥からいただけなければ」
 媒体を怪人をかえることはできるのだが、その媒体を作る技能はムービースターとして現れた彼にはない。
 名物ワインを仕入れ、怪人ぼじょれぃ増産のためにDrドクドクは動き出した。

種別名シナリオ 管理番号308
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメント あのワインの名前って人名っぽく聞こえませんか?
 そんな感じで橘真斗です。
 連動イベントをそっくり逃してしまったので、別の時事ネタで勝負をかけてみたり(ぉぃ)

参加者
清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
北條 レイラ(cbsb6662) ムービーファン 女 16歳 学生
ルドルフ(csmc6272) ムービースター 男 48歳 トナカイ
兎田 樹(cphz7902) ムービースター 男 21歳 幹部
友永 勇護(ccah2978) ムービーファン 男 37歳 俳優
<ノベル>

〜倒せ! 怪人ぼじょれぃ〜

 ガッシャーン!
 スライム人間は「ぼじょれー」といいながら、名画亭の椅子を外へ力任せに投げ、窓ガラスが割れる。
「しゃ、洒落になってないぞ!?」
 俺、友永勇護は身をかがめて暴れるスライム人間からの攻撃を避ける。
 ムービーファンでバッキーもいるが、それでも一般人。
 ここで怪我をしたくない。
 俳優業に支障きたすからな
「つか、俺もワインを買ってこいって言われているんだよなぁ……って、それどころじゃないだろ」
 二回に及ぶ自分へのノリ突っ込みを終えた俺は事の様子を見守ることにした。
 こっそり抜け出してでも、妻にワインを買っていかなければ怪我は免れない。
 まさに四面楚歌だ。
 そのときだった、あいつがきたのは。
「もぎぃ!」
  突如、割れた窓の外の闇から何かが飛び出してきた。
 明るい室内に奇妙な声と共に転がってきたのは、兎。
 後で知ったことだが、その兎はムービースター兎田 樹というらしい。
 この街には面白いヤツがおおい。
「ぷぎぃ!」
 その兎はカッコイイ(と思われる)ポーズをとって口上(らしきもの)を述べた。
 俺には『ぷぎぃ!』としか聞こえなかったが、タイミングからしてそれしかない。
 アクション俳優としての俺の勘がそう訴えていた。
 兎は服の埃を払うと、ごそごそと看板を取り出した。
 その大きさは兎の2倍くらいはある。
 どこに隠してたんだよ、おい。
『埃が入らない内にきちんと呑めるようにしてやる!』
 看板には突然、そんな文字が浮き上がっていた。
 可愛い外見の割りに物騒なことをいうものだ。
 兎は足元から、にゅっと仕切りのついたジュースの段ボール箱をだす。
 そして、看板をくるりと回した。
『いっくよぉ! 連装式ペットボトルミサイルランチャー改!』
 標準があったのかどうかわからないが、そんなことをいって……いや、書いてか?
 それも何か違うようなきもするが、とにかく兎の攻撃がスライムに炸裂したのは間違いない。
 シュボボボボと飛んでいくペットボトルロケットがスライム人間を粉々にくだいた。
「やった……のか?」
 俺はおそるおそるでていく。
『はやく、お持ちかえりしなきゃっ!』
 兎はそういうとペットボトルをもって『ぼじょれー』の回収をしようとしていた。
 しかし、敵さんはスライム。
 バラバラになった程度で沈む相手じゃなかった。
 ぐにょぐにょと集まり、店の外へ逃げ出そうとする。
「お! 逃げるぞ!」
『クリーンな怪人は逃げちゃだめなんだよっ。食べ物を使うのはんたーい』
 先ほどと口調が違った文字を看板に表示させつつ、兎は訴えていた。
 しかし、退路を塞ぐナイスな男がいた。
「やれやれ、折角のパーティ気分が台無しだ。どうしてくれるんだい?」
 葉巻が似合いそうな低音ボイス。
 そして、独特の風格をおびたそいつは……トナカイのルドルフだ。
 巷で噂になっているナイストナカイ、略してナイスカイらしい。
「ワインの匂いがしやがるな、オーゥケィ。イケナイ子にはお仕置きだ」
「ぼじょれー!」
 お仕置きという言葉が理解できたのか、『ぼじょれー』は声をあげてルドルフに襲いかかった。
 だが、ルドルフは肩をすくめて首を振るだけだった。
「忠告を聞かないとは、本当に困ったヤツだ。フランベにしてやるぜ」
 咥えていた葉巻をふっとなげる。
 ワインから生み出された『ぼじょれー』はその熱により、料理番組でよく見る淡い炎を上げて燃えた。
「ぎゃー!、店の中でなにやってるんすかっ!」
 カウンターに隠れていた名画亭の亭主は叫び声を上げながらでてくる。
「気にするなマスター。もうジ・エンドさ」
 ルドルフの言うとおり、『ぼじょれー』は消し炭のようになっていた。
「しっかし、こんなワイン他に出回ってないだろうな……」
 俺は嫌な予感が脳裏をよぎる。
「知り合いにも調べてもらうことにしよう、あいつならワインの事件ならのるだろうからな」
 ルドルフはどこから取り出したのかヘッドフォンを頭につけて連絡を取り出す。
「アローアロー、こちらルドルフ。緊急の用事だ、跳ね馬ちゃんならすぐに乗るような話だぜ」
 その様子はどこかの軍人を思いえがかせるほど卓越したものだ。
 さすがは、ムービースター。
 俺も負けてられないな……。
 
 
〜ぼじょれー量産計画進行中?〜


 名画亭で騒ぎが起きているころ、清本橋三は居候先の組長へこの時期売れ出す『ぼいじょれーぬーぼー』なる物を探していた。
立ち寄った『こんびに』ではすでに売りきれたところだった。
「人気があるしなとは気がつかなかったな……剣客以外の知識をいれなければ生活は難しいのか」
 手持ちの報酬でプリンを買って食べていると、背後から声がする。
「そこの若いのちょといいかの?」
 コンビニのプラスチックスプーンを咥えたまま、くっと振り向き刀に手を添える。
 そこにいたのは親切そうな老人だった。
(背後から気配を見せずに近づくとは……やる)
「そう血の気をださずともよい、だがその腕を買って頼みがあるんじゃ。ワシの工場を少し守ってもらえんかの? 悪いヤツラに狙われておるのじゃ」
「おまえさん、俺を雇おうってのかい?」
 仕事の話がこんなところでくるとはと橋三は喜んだ。
「そうじゃ、報酬はこのワイン一本で」
 老人が取り出したのは『ぼじょれぃぬぅぼぅ』と書かれたラベルが貼ってあるワインだった。
「その話、請けよう」
 ワインをみると橋三は迷うことなく答えた。
 
 
〜ぼじょれーを探せ〜
 
 
 『もしもし、あらトナカイのおじさま』
 トナカイと話しているのは女性の声。
 透き通るような綺麗な声が俺の耳に届いた。
「ああそうだ。レイラ、いい子にしていたかい?」
 電話(?)の相手は北条レイラという名家のお嬢様らしい。
 トナカイの人脈、恐るべし。
『ワインを使った怪人をだすなんて、許せませんわ! 私も調査しますわ』
「頼むぜ、レイラ。けど、無茶はするなよ」
『わかっていますわ、では御機嫌よう。おじさま』
 電話の向こうでお辞儀する姿が一瞬俺には見えた。
 口調一つで、人間のイメージって見えるもんだな。
「協力者は多いほうがいいだろ? ステキな夜を邪魔した罪は高くつくぜ」
 ヘッドフォンをつけたまま、トナカイはウィンクをしながらいった。
 ネクタイを緩める姿が様になっている。
 パーティに行く途中だったのかもしれないが……トナカイが出向くパーティについて、俺は想像できなかった。
『協力するんだよぅ』
 くるりと看板を回して文字を変える兎。
 皆、真剣だ。
「俺もそのワインを買ってこなきゃならないし、人肌脱ぐか」
 対抗意識とかじゃないぞ、間違ってもチガウ。
 ムービースターに喧嘩売ることはしたくない。
 けれど、嫁に襲われるのもいやだ。
 そのことは言わない、それが俺の正義(ジャスティス)
「他の店に流れていないか、そこのところから探そうか」
 俺は思いついた意見を獣二人に尋ねる。
「オーケィ、俺は商売ルートから洗おう。本来はバンビちゃん限定だが、今日は特別だ」
 ルドルフはそういうと俺や、兎に電話番号を手渡してきた。
「じゃあ、俺はコンビニからかな」
『この消し炭から成分を検出するんだよぅ』
 くるっと看板を回転させ、兎もいった。
 なんだろう、この感じ。
 俺にはドラマや映画の撮影をやっているのと同じ連帯感が生まれている事に気づいた。
 ムービースターもファンも関係ない。
 同じ銀幕市に住み、この街が好きという心で結ばれているような、そんなことを俺は思った。
「そうとなったら、行動にでるぜ! 気合はいってきたっ!」
 パシンと両手で頬を俺は叩く。
 本番前にいつもやる気合の入れ方だ。
「それじゃあ、連絡は俺経由で。レイラの番号をあんたらに教えるわけにはいかないからな」
『わかったんだよぅ』
 兎は看板を回し、ぴこっと敬礼をした。
 意外とかわいいなと俺は思う。
「それじゃあ、お互い健闘を祈るぜ!」
 俺はいてもたってもいられなくなって名画亭を飛び出した。
「あのー、店の片付けもしてほしいんっすけど〜」
 後ろから店主の声が聞こえてきた。
 けど、それはあとで……ちゃんとやるから、勘弁してくれ!
 
 
〜ぼじょれぃぬぅぼぅ売り尽くしセール〜
 
 
 一方、Drドクドクは橋本清三を用心棒に向かえ、怪人ぼじょれぃぬぅぼぅの量産に取り掛かった。
「総帥からもらった予算は前回の失敗から減っている。なんとしても成果をださねばならぬわ」
 悪の組織も大変なようである。
 瓶に薬品をいれ、ラベルを張り替える。
 ただ、それだけの作業ではあるが薬品を精製するための研究施設は夜のスクラップ工場で行われていた。
 赤、青、黄色などのカラフルな液体が縦横無人に駆け巡り、ワインに似た液体に調合さていく。
 それを丁寧に抽出し、錠剤へと加工する。
 ムービースターDrドクドクは演出にこる存在であった。
 3本目の加工に入ったとき、スクラップ工場のドアを開ける音がした。
「ご老人、おやめくださいませ。得体の知れないワインはワインであってワインにあらずですわ」
 水色のドレスに身を包み、二丁のそれぞれ装飾の違う拳銃を携えたレイラが現れる。
「その通りだぜ。あんた、ワインは飲んで味わうものだ。一年ぶりの再会を祝し、会うたびに変わるそいつは遠くにいる恋人のようなもの」
 続いてルドルフが巨体を何なく入り込ませる。
「悪の怪人とか、幹部ってのは俺も経験あるがそれはTVの中だけで十分だぜ」
 そして、最後にバッキーを携えた勇護が入ってきた。
「ふん、闇あって初めて輝く星にいわれたくないわい、ゆけい! ぼじょれー!」
 作りたての瓶詰めされた怪人を投げるDrドクドク。
 パリンと瓶が割れて、そこから名画亭に現れたスライム状の生物が生まれる。
「「ぼじょれー」」
 謎の声を上げて溶けながら襲い掛かってくる『ぼじょれー』。
 さすがのレイラも少し唖然とするが、すぐにバッキーに指示をだす。
「こちらもいきますわよ。サムライ解禁ですわ」
「お前もいけ!」
 レイラの肩に乗っていたサムライと勇護のバッキーがぴょーんと飛ぶ。
 ぼじょれーと威嚇する『ぼじょれー』の頭にぴょこんと乗っかると、2匹もきゅもきゅと食べだした。
 瞬く間にバッキー達のおなかに収まる2体の『ぼじょれー』。
「きゃぱぁ」
 可愛らしいゲップをあげて、2匹のバッキーは頬を紅くしてふらつく。
 どうやら酔っ払っているらしい。
 ふらつきが踊りのようにもみえてくる。
「な、なんか和む光景だな……って、そうじゃねぇ! おい、あんた! 観念しな!」
 勇護が一瞬和みそうになり、首を振って追い払う。
 そしてドクドクに向かってかっこよく指を突き出し、ヒーローらしい台詞をはいた。
「ええい、こうなったら……出番じゃぞ、用心棒」
 ドクドクがそういうと、ゆらりと動きをみせ橋三が出てきた。
 見るだけで威圧間を持つ橋三の視線が勇護に向けられる。
 ビクッとなり、勇護はルドルフの後ろにささっと隠れた。
「ほら、ルドルフ。なんとかしてくれ」
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした勇護」
 やれやれと行った具合にため息をつくルドルフ。
 そのルドルフの横をレイラはすたすたと歩き、橋三のほうへ向かう。
 その間に拳銃の弾をすべて抜き、母親からもらった拳銃に一発だけ弾を込める。
「おい、レイラ何を考えているんだ!?」
 さすがのルドルフも少し戸惑った。
「じらされるのは嫌いですもの。相手はムービースター、ならば一つ賭けできめたいと思いますの」
「ほう、おまえさん。俺とやりあうというのかい?」
 レイラの余裕そうな発言に橋三の
「ええ、一発勝負。お互い、抜き打ちで勝負ですわ」
 レイラはあえて居合いの間合いたち、銃を腰のベルトに収めた。
「面白い、ゆくぞ……」
 居合いの構えを取り、じっと待つ。
 レイラも橋三の瞳をみて、じっとする。
 ひゅぅと風がふき、バッキーたちがこてんと倒れた。
「ぷぎゅぅ」
 その声を合図に二人は己の獲物を抜いて、勝負にでた。
 レイラの銃弾を橋三はまっすぐ切り裂く。
 しかし、その破片が額に打ち込まれた。
「ば……ばか、な……」
 目を見開き、ふらふらふらとしたあと、ばたりとその場に倒れた。
 橋三が倒れたあとには血の海がゆっくり広がる。
「チェックメイトですわ」
 ふっと煙のあがる銃口を拭いてレイラは微笑んだ。
「ええい、使えぬやつめ……ここは退散じゃ」
「おっと、爺さんそうはいくか!」
 ルドルフがドクドクを逃がすまいとタックルをしかける。
「諸君、また会おうっ!」
 ドクドクは捨て台詞をはくとサングラスをかけ、閃光弾を床にぶつけた。
「くぅ!」
 余りのまぶしさにルドルフも、レイラや勇護も目をつぶり光をさえぎった。
「俺達が使うような手を使ってくるとは……油断ならないな」
 目をあけると、そこにはドクドクも研究施設もない。
 ただの廃工場と、買い占めたワイン、そして倒れた橋三が残っていた。
「おじさま、ワインを無事取り戻せたのですから、よいではありませんか。皆さんでワインで乾杯いたしましょう。もちろん、橋三様もご一緒にね」
 レイラがそういって倒れている橋三に言葉をかけると、ゆらりと橋三は立ち上がった。
「な、なんでだ!?」
 その光景に勇護はびっくりした。
「あら、ご存知ありませんの? この方は清本橋三様。名『斬られ役』で有名な時代劇スターですわ」
 ふふりとレイラは微笑み、サムライを抱き上げる。
「知ってて勝負を挑むとは、やるなおまえさん」
 橋三はそういうと、ふっと笑う。
「やれやれ、やっぱり跳ね馬ちゃんにはかなわないな」
 その後、名画亭の修繕と共にワインパーティが開かれたのはいうまでもない。
 楽しい一夜は、永遠の思い出として各々の胸に刻まれたことだろう。

クリエイターコメント締め切りギリギリで申し訳ありません。

楽しんでいただけたのなら幸いです。
それでは、皆様また運命の交わるときまでごきげんよう♪
公開日時2007-12-11(火) 19:10
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